愚者の勇

……ゴドリック
「此のドレス、どう」
変な所、無いかしら
ヘルガの柔らかい聲が
書斎を駆け巡り、満ちた
大きく開いた襟元
其處からは華奢な真っ白い頸
頸が…
頸がわざとらしく生えていた
窓から侵入して来た月光が反射して
頸だけが青白く浮いているようだった

「頸が…」
白    い
    頸    が 

私の視界は乳白色に染まり切っていた
彼の無機質でセルロイドのような禍々しいものとも
彼女の抜ける硝子のような繊妍なものとも
何か根本的に異なっていた
仄かに上気した桜色が酷く扇情的に映った
其の透けた血管目掛けて彼女の首筋に歯を
――さくり――
と埋め込んでみたい衝動に駆られた
昨夜食したシチューの中を漂っていたマッシュルームのような
歯切れの良い弾力有る感触かもしれない
と思った
私が其れを口にする事は無いし
今後も恐らくは無いと思う
其れは嘗ての私が決めた事だ
云ってしまえば彼女は心配するだろう
彼女のそんな押し付けがましい優しさは
好ましいと思った事は無い
けれど厭うた事も無かった
何処か曖昧なのだけれど
其の曖昧さが心地善かった

それに、
其の回路は「私」と云う容貌と器に
用意された性格に反するものなので
私はそれらの想いを呑み込み
言葉を繋げる事に専念する事にした
いつもしている事なので慣れてはゐた
至極簡単な事で
軽く流せば好い
「出過ぎてて寒くないか」
反応すべき箇所が違う位は解っている
ーーしかし
此処で真面目に返すのは正しくない
否、「私」らしくないとされるのである
ーーあーー
胃が悲鳴をあげた
ーー全く貴方らしい意見ですわね
幽かな象牙色が優雅に現れ
鈴の転がるような音を奏でた
善かった
彼女の表情が一瞬不思議そうな顏をしたから
てっきり「外した」のかと心に汗が滲んだ
本当の「私」は気付かれてはいけないモノだ
今の私にとって彼女は
居て欲しい
けれども
同時に早く立ち去っても欲しい存在だった
ーーそんな事より
「こんな所で油売ってて好いのか」
彼奴の青筋立った顏が目に浮かぶようだな
ふふふ
「偶には待たされる側の気持ちも味わって戴きませんと…」
有難味が解りませんでしょう
此れで好いのです
其れに
今日位我が儘を云っても罰は当たりませんわ
そう云って猫のようにころころと笑う彼女が
身を切られるように愛おしいと感じた
そう思う事自体
私には無駄で意味の無い事なのだが
そんな無駄さえも愛おしいと思えた
私はそんな私をいじましいと思うも
前より少しは好きになる事が出来た
ふと、そんな氣がした
今日はクリスマス
舞踏会迄一時間を切った
サラザールの元へと急ぐ彼女を
只黙って見ているしかない
無力で臆病な自分を呪った
何が勇気だ…
嘘吐きめ

2004年12月某日



発掘したブツで多分このサイトのテキストの中では最古か最古から二番目のやつです(恥)
どういうものを目指そうとしていたのか自分で未だに分かるだけに色々恥ずかしいのですが、
作った記念で残しておきます(携帯サイトにはバッチリ残ってるしね…今更隠しても始まらないので)。
サラヘル同盟をこの年の11月に作ったので、うちにもサラヘルっぽいものを増やそうと意識していた頃です。
サラヘル前提なのですが、ロウィナそっちのけで「サラヘル←ゴド」の構図だったようです。
と云うかぶっちゃけサラヘルさえありゃ他どうでも良いよ(ゴドもある意味単なるダシに使われたクチ)感覚でした。
ドレスが云々というのはクリスマスを意識して書いていた為と思われ他意はありません。
12月中旬〜1月上旬にTOPページに居ました。
当時は今よりももっとTOPがごちゃついて華やかだったもので、懐かしい。
本当は縦書きが良かったんですがMacはそのタグに対応しているブラウザが無かった(現在形)ので出来なかった思い出が。

2006年3月13日