Remember Rowena...
Remenber, you are not a man, but a woman.

[06] Can't help tears falling down.



───悪夢だ。

年は暮れ。
試験も終わり、私はその採点に追われていた。もう少し簡単な問題を出しておけば良かったと少し悔いたが、延いては生徒の為、私が妥協しては何もならぬと黙々と作業を続けていた。クリスマスパーティには毎年服を新調しているのだが、今年は採寸から何からしている暇が無かったので、やむなくゴドリックに適当に見繕っておいてくれ、と頼んだのだが、それが間違いだった。当日箱を開けて出てきたのはブルーグレーの絹タフタで仕立てられたバッスル付きドレスだった。

文句を垂れつつも、一応は着てみた。
が、どうもしっくりこない。
「本当にこれを着て出席するのか?」
「往生際が悪いね」

苦虫を噛み潰したような気分の私には、やけに満足そうな彼の笑顔が少し癪に触った。

「そもそもお前が私に似合うものを見繕ってくるっていうから信じたのに」
元を正せば自分の時間配分ミスなので余り文句も云えなかったが、これは余りに酷い、としか思えなかった。

私はあの日、髪を切り、女としての生は捨てると宣言して以来女物の服は身につけた事が無かった。それは彼も知っていた筈なのだが。よ、っと声を掛け乍ら、私が勧めた訳でもないのに勝手に人の椅子に腰をかけてこちらを見やった挙げ句に

「似合ってるよ」

などとしれっと返してきた。茶番だ。
妙に足がすかすかして変な懐かしい感じだった。しかし昔には無かった何とも表現のし難い気恥ずかしさがそこにはあった。

「どこ目をつけている。こんなヒラヒラしたもの…」
「もしかして本気で似合わない、とか思っている?」

足を組み替え、更に深く腰を据えた。

「そういうのを人は思い込み、または勘違いと呼ぶ。知っていたかい」
答えに詰まってしまった。
こういう時のゴドリックは嫌いだ。何かを見せつけられるような、何とも云えない不快感に全身を舐め回されるような気がする。
「私は…」
「そういうステレオタイプさこそが君の敵だった筈だろう」

「自分が女である事から逃げるなよ」

両親は、私が詩など教養的なモノを覚える事には何も言わなかったが、そこから先の勉学を進める事には酷く反対する人達だった。勉強ばかりする娘では嫁の貰い手が無くなる、と嘆いていたのである。だからこそ私は伸ばしていた髪を切り、男のような格好をし、今迄の人生を歩んできた。

「女性性を否定するのに女性性を尤も意識していたのが自分である事に気づいても良い頃合いだと思うよ?要は気の持ちようさ。君が男物を着るのは好きならそれは文句は云わない。それも似合っているとは思うしね。だけど、見た目から女性性を排除する事で安易に逃げるのは如何なものだろう」

そう云うだけ云ってから両手を軽く挙げ

「別に君に説教しにきた訳じゃない。気を悪くしくて云ったんじゃないって事だけは忘れないで」

とそのままドアの方へと歩み、30分位したらまた迎えにくるから、とだけ残して出て行った。

ドレスを着た時とは違った別の羞恥心で一杯になっていた。
頬を一筋の暖かいものが走った。
何も云えなかった。






title21.より「06.涙」

ゴド、ロウィの軌道修正をするの巻、みたいな(笑)

お絵描きツール:しぃちゃん+Photoshop7.0
2005年11月4日